夏休みの課題図書②『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』

「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方   成功を引き寄せるマーケティング入門」森岡毅著、株式会社KADOKAWA(2016)

 

昨年発売の本。話題になっていたので購入していましたが、ようやく読了。

著者の森岡氏はすでにUSJを退社されていますが、これだけの実力者ですので、きっとまた違う所で、実務家として名前を目にすることになるでしょう。

 

タイトルに「マーケティング入門」とある通り、オーソドックスなマーケティング戦略構築の手法が展開されていて、さすがP&G出身のマーケッターという感じがします。タイトルにあるたった1つの考え方とは「消費者視点」であり、これはP&Gで信じられている価値観”Consumer is boss(消費者を上司だと思え)”に由来しています。

 

紹介される考え方、フレームワークも非常にシンプルなものとなっています(もちろん書籍向けに単純化しているのかもしれませんが)

・マーケティングの本質とは

  (1)頭の中を制する

  (2)店頭(買う場所)を制する。

  (3)商品の使用体験を制する。

・マーケティング・フレームワーク

  目的:OBJECTIVE(達成すべき目標は何か?)

  目標:WHO(誰に売るのか?)

  戦略:WHAT(何を売るのか?)

  戦術:HOW(どうやって売るのか?)

著者のほかの書物では、データを徹底的に分析し活用した例も紹介されていましたが、基本的な考え方自体は本書の様なシンプルな思考からなっているというのは、そもそも「マーケティング」について深く考えたことがない、という中小企業の経営者にも読みやすく、参考になるのではないかと思いました。

 

また、「日本企業は技術志向に陥っている」「日本の組織の多くは、戦略を間違えるというよりもむしろ戦略がないことが多い」といった指摘は、先日読んだ平野氏の主張と重なりますし、「日本の現場には戦術を確実に実行できる強みがあるので、あとは合理的な戦略を持って戦うこと」という主張も同様です。こうした内容は、日本企業の経営戦略・事業戦略に対する支配的な見方と言えるのでしょう。

 

ちなみに後半に「マーケターに向いている人、向いていない人」という章がありましたが、ここは古傷を触られるような気がしたので軽く流しました(笑)

 

さて、本書の中で森岡氏は「マーケティング優勢で技術力を活用する会社」が現代の理想の企業形態である、との主張をしています。ただしこの主張は、マーケティングによって明らかになった顧客のニーズ、顧客の求める商品像を達成するだけの技術力、あるいは技術力を調達するだけの経営資源(資金)を有する企業、すなわち比較的大きな規模の企業によりフィットする戦略であると思います。一方、経営資源が潤沢でなく、限りある経営資源で戦わなければならない中小企業にとっては、まずは自身の武器となる技術的強みを洗い出し、その強みが生きる市場はどこなのか、フォーカスすべき顧客は誰なのかを、徹底的に考える戦略の方が望ましいのではないかと考えています。これは、私が2年前に書いた修士論文を作成する過程で至った結論です。いずれのステップを踏むにしても、事業を検討する上で一番知恵を絞り、徹底的に思考すべき段階であると言えるでしょう。