『経営の針路』平野正雄著、ダイヤモンド社(2017)
著者の平野氏は早稲田のビジネススクールの教授で、早稲田での修士時代にビジネススクールの授業を聴講していたことがあります。穏やかな物腰、語り口に、深く鋭い洞察力やインテリジェンスを感じさせる方でした。長年外資のコンサルファームでコンサルタントの第一線で活躍され、世界経済を見つめてこられた氏ならではの時代観、歴史観が展開されています。
1990年からの30年間で世界経済が「グローバル経済」→「キャピタル経済」→「デジタル経済」と変遷してきたと説明します。語り口同様、重層的な内容をとても丁寧でロジカルに説明されています。
日本企業に対する評価は手厳しく(日本的経営を全否定している、ということではもちろんないのですが)
・戦後の日本の企業経営は一言でいえば供給力最大化の経営。一方、長期戦略思考が欠如している
・日本企業のガバナンスは経営に甘く、現場に厳しい(これが東芝の不正会計事件の端緒になっている)
・日本企業は人材重視を強く標榜してきたが、その実態は採用と雇用に対する執着
・集団の純潔と組織の求心力を維持するために新卒採用・長期雇用に固執し、一方で固定費抑制のために正社員の採用を絞り、労働力の調整弁として活用している非正規社員との待遇格差によって社会の分断を招いていることは社会的糾弾に相当する
先ほど挙げた日本独特の雇用実態に関する「社会的糾弾」という言葉の強さには少し驚いたのですが、人間中心の経営の重要性を主張する布石にもなっていました。
今後の日本企業の再生のために戦略思考の徹底、組織革新の断行、人を中心とする経営の確立の3つを推進することを挙げています。
世界経済を俯瞰している性質上、本書で日本企業という際の主眼は大企業にあります。それゆえ、過去の経験を思い返して共感できる指摘が多々ありました。「前年比」から始まる販売計画資料などは、供給力最大化思想の最たるものだな、とか。
一方、こうした状況の中で中小企業はどう動くべきか、を考えてみると、本書でも書かれていますし、他の所でもよく言われていることですが、デジタル事業は大きな資本を要さないため、グローバル市場を相手に事業する中小型規模の企業がもっと活躍できるという市場機会を活かすべく、戦略を構築し、実行することが重要なのでしょう。
また、大企業が本書に上げられているような現状の課題を解決するには相応の時間を要するでしょうから、身軽な組織の中小企業がアジリティを発揮して大企業を出し抜くことも可能なのではないかと思います。「大企業のことは気にしないで動けばよい」の方が正確でしょうか。ここのところ、目にしない日はない「IoT活用」などは、非常に良いきっかけになるように思います。
大局観を踏まえた上で、各論を考察する。良い頭のストレッチになった気がします。
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